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柔道整復師と介護福祉【第62回:全世代型社会保障】

2019/12/16

安倍政権が総仕上げと位置付けている、社会保障制度改革の議論がいよいよ本格化しています。政府は2020年初めの通常国会に年金・介護制度改革の法案を提出することを目指しており、その具体策が提示。政府は、安倍首相が議長を務める「全世代型社会保障検討会議」を新たに創設、9月20日にその初会合が開催されました。法案策定に向けた具体的な議論は、政府・官庁主導で進められています。ところで、全世代型社会保障制度というのは、現政権の社会保障政策のいわば看板施策です。元々は、これは民主党政権時代に野党だった自民、公明両党が「社会保障と税の一体改革」で打ち出した概念となります。

10月から導入された幼児教育の無償化はこうした考えに基づき実現しました。この政策は、退職世代だけでなく現役世代にも広く社会保障制度の恩恵が及ぶことを目指しています。

 

全世代型社会保障の考え方の背景

日本と海外を比較すると、日本の社会保障制度における給付が退職世代により厚くなっている現実があります。この現状下において、社会保障制度を支える現役世代の不満を緩和するために打ち出された施策とも言えます。

しかし、年金制度、介護制度などはそもそも退職で所得基盤を失った高齢世代に資金を給付、生活の安定を図れるよう設計されています。社会保障制度には、その他にも失業保険、子育て支援、生活保護などの制度がありますが、急激な高齢化進展により、現在最も改革が必要となっています。

 

全世代型はバラマキ

本制度設計には、世代間の給付に大きな格差が生じますが、設計当初から想定されていたことです。したがって、現役世代が保険料などで制度を支え、主に退職世代が受給すること自体に不満を感じる方はいないのが現実です。それは、自分自身が退職世代となれば、受給する仕組みとなっているからです。

社会保障制度を巡っては、現役世代、特に若年層が感じる不公平感は、給付ではなく主に負担に関することが浮き彫りになっています。退職世代を支えるために現役世代は大きな負担がかかる一方、自らが退職世代となった際に、現在の退職世代よりも給付水準が極端に低くなる想定が不公平感をもたらしています。

ところが、全世代型社会保障制度は、負担の公正性を取り戻す観点よりも、現役世代に更に給付を拡大させていく、バラマキ的な政策につながる可能性が否めません。所得水準に配慮、あるいは退職時期の延長を検討し、給付の削減を進めていく以外に有効改革には繋がらない懸念があります課題に対し、政府の抜本的対処が必要に迫られています。

 

消費増税の検討

10月1日に消費税率が引き上げられました。安倍首相は、自らの任期中にさらなる消費増税を実施する考えがないことを明言しています。さらに、向こう10年間は、消費増税は必要でない見通しまで示しました。このような発言には、更なる消費増税が政権に対する国民の支持を低下、次の衆院選に打撃となる可能性が示唆されます。それに加えて、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化目標は未達であるとはいえ、現政権下で赤字額は縮小傾向を辿っています。追加増税の必要性は、現時点では低下している判断に繋がっています。しかし、それは誤解に基づいている面があると思われる。プライマリーバランスの赤字幅縮小は、長期政権と重なる世界規模での歴史的長期景気回復という強い追い風により実現されたものです。世界経済が後退局面入った場合、日本でも税収が大幅に減少することが想定されます。さらに、そうした際には財政出動に伴う景気対策が講じられやすいです。その結果、歳入、歳出の両面から財政環境は一気に悪化、プライマリーバランスの赤字幅は急増、現政権下での改善幅の相当部分を失うことになる可能性を秘めています。

いずれにせよ、増税策を封じ込めたことで、今後の社会保障制度改革の議論は給付の見直しに集中する形となりました。

 

改革施策

医療制度改革も含め、今後の社会保障制度改革案では、以下が示されています。

  • 希望する高齢者が70歳まで働ける環境を整え、現役世代と退職世代との人数バランスを改善させる
  • 一定の収入がある高齢者の年金を減らす「在職老齢年金」制度を廃止あるいは縮小する
  • パート労働者らが厚生年金に加入できる企業規模要件を、現状の従業員501人以上から引き下げる
  • 75歳以上の後期高齢者の医療費の自己負担を、現行の1割から2割に引き上げる。また、受診時の定額負担を上乗せする
  • 予防医療を推進する
  • 医師偏在対策や疾病予防を促すために交付金制度を見直す
  • 介護保険で、自己負担の上限を現行の4万4,400円から引き上げ、所得が高い世帯ほど自己負担額を増やす
  • サービス利用者の負担を今の原則1割から2割に上げる

このように、改革案については、社会保障受給者に負担を求めるものが中心となっています。しかし、これら改革案は、いずれも既に政府が取り組み、また検討することが確認された方針が中心となっています。

改革案は、2020年初めの通常国会に提出され年金・介護制度改革法案、2021年の通常国会に提出、医療制度改革法案に盛り込まれるか否か政治判断となっています。

 

在職老齢年金制度見直し

改革案には、真っ先に方向性が見えてきている、働いて一定以上の収入がある人の年金を減らす「在職老齢年金制度」の見直です。

厚生労働省は、10月7日、在職老齢年金制度を見直す方針を固めました。65歳以上の人について現在、賃金と年金を合わせた月収が47万円を上回ると年金は減らされ、これを62万円にまで引き上げる案を軸に調整されています。

この在職老齢年金制度とは、高齢者の就業意欲をそぐという指摘があり、廃止の可能性も含めて見直しが検討されてきました。政府の掲げる骨太方針でも、「制度の廃止も展望しつつ」とされていました。しかし、廃止すれば、年金支給額が大幅に増え、年金財政への悪影響が大きいため、当面は見送る方向となっています。高齢者の就業を促すことは、経済の潜在力を高めるためには重要な位置づけです。また、年金財政の再建には、退職年齢を延長し、現役世代と退職世代との比率を変えていくことが重要となります。しかし、この在職老齢年金制度の見直しは、年金支給額を逆に増加させ、将来世代の給付水準の低下につながる可能性を示唆しています。また、この制度の下では、厚生年金に加入する高所得者は年金が削減されるが、自営業あるいは株式投資などで巨額の収入を得ても年金は削減されない不公平性が指摘されています。

 

労働と一体改革の重要性

現行制度の下では、年金の減額措置がなされる賃金と年金を合わせた月収が47万円を境に高齢者が勤労を控える傾向は明確に調査されていません。見直しによって、高齢者の就業意欲の促進に繋がる明確な推測も示せていません。見直しを受けた年金給付の増額が、企業による賃金の削減によって調整されてしまい、結果的に年金と賃金の総額に変化はなく、高齢者の就業意欲促進に繋がらない可能性も秘めています。

年金制度改革は、退職年齢の引き上げと給付額の抑制の組み合わせが柱となりますが、その実現には、企業に70歳までの雇用を義務付、年金給付開始を70歳に延長など、労働市場改革と一体化した抜本的見直しが必要となります。在職老齢年金制度見直しも含めた現在の改革議論は、現状の課題解決も含めたロジックモデルの確立が喫緊に求められています。

 

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