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柔道整復師と介護福祉
【第75回:コロナ禍における介護分野の課題と前回介護保険改正の振り返りvol.1】

2021/01/16

COVID-19の感染拡大による混乱が続く中、2021年度介護保険制度改正・介護報酬改定に向けた準備が進められています。制度動向を注視し、変化に対して柔軟かつスピーディーに対応することは、介護サービス事業所にとって非常に重要課題です。接触が当然とされた介助を非接触でどのようにサービス提供するか創意工夫を行うとともに、事業の持続的な運営のためには制度改定に向けた準備が不可欠となります。今回は夏以降に本格化する2021年度介護保険制度改正・介護報酬改定の議論に向けて、これまで介護保険部会や介護給付費分科会で行われた議論のポイントを整理してまいります。

 

COVID-19が介護サービス事業所に与える影響

世界中で猛威を振るったCOVID-19は、6月1日現在で感染者数が610万人を超え死亡者数は37万人以上となっています。特に高齢者の致死率が高く、要介護高齢者を抱える高齢者施設では多く方が死亡しており、クラスター発生を防ぐことができず爆発的な感染者を生んだ欧州では死亡者数の約半数が高齢者施設の利用者であると報告されています。世界各国で大規模な外出規制や活動の自粛が行われていましたが、感染者数のピークを迎えた一部の地域では少しずつ経済活動の再開に向けた動きが出てきています。日本においても5月25日に緊急事態宣言が解除され、外出自粛や施設の使用制限等を緩和し、社会経済活動を段階的に引き上げていく方針が打ち出されました。政府は感染拡大を予防するための指針として「新しい生活様式」を公表して「ソーシャルディスタンス」を呼びかけており、治療薬やワクチンの開発など、安心して暮らすことができる医療体制が整うまでは、「医療崩壊」と「経済崩壊」をいかに両立させていくかが重要課題となります。

一般社団法人全国介護事業者連盟が全国約1,800事業所を対象に実施した「新型コロナウイルス感染症に係る経営状況への影響について『緊急調査』」、経営への影響について、「影響を受けている」と回答した割合が55.7%(1,037事業所)、「影響を受ける可能性がある」は37.7%(702事業所)と9割以上の事業所で経営に影響が出ています。また、2月と4月第4週における減収割合では、「10~20%未満の減収」が36.6%(380事業所)と最も多く、68.5%の事業所で10%以上の減少が見られるなど事業所経営に非常に大きな影響を与えていることが分かります。サービス別では通所介護が最も経営への影響を受けており、当該調査では「影響を受けている」の割合が90.8%(660事業所)、2月と4月第4週の減収割合では62.3%(411事業所)が10%以上の減収があったと回答しています。

 

新型コロナウイルス感染症に係る経営状況への影響について

現状の主な経営課題に関する設問では、「利用者のサービス利用控えによる利用者減」や「営業活動や見学自粛等による新規顧客減」、「人手不足・職員体制の維持」と回答する事業所が多数を占め、COVID-19は利用者確保だけでなく、自組織の職員体制にまで影響を与えていることが分かります。社会経済活動は段階的に再開の動きを見せていますが、3つの密(密閉・密集・密接)を避ける「ソーシャルディスタンス」が今後の生活のベースとなると想定されており、特に感染により致死率の高い高齢者を顧客とする介護事業においては、今後も「サービス利用控え」などの問題が当面継続するものと思われ、COVID-19以前と比べ介護サービス事業所を取り巻く経営環境は一層厳しくなることが予想されます。

今回、多くの感染者を生んだ欧州では死亡者の約半数が高齢者施設であるのに対して、日本の介護施設における死亡者数は世界最低水準となっています。これは日常からの感染防止策がしっかりと徹底されている証拠であり、世界各国と比べて被害が最小限に抑えられているのも介護現場で働く方々の努力の賜物と言えます。厳しい経営状況の中で日々感染予防に努め、安心・安全なサービスを提供している介護サービス事業所の方々のご尽力が功を奏しております。

 

2018年度介護報酬改定の振り返り

2018年度の介護報酬改定は診療報酬とのダブル改定であり、診療報酬で大幅に引き下げられた薬価分を財源として全体では+0.54%(前回は-2.27%)の改定率となっています。2018年度は団塊の世代が75歳以上となる2025年を見据え、以下の4つのテーマについて改定が行われました。

  • 地域包括ケアシステムの推進
  • 自立支援・重度化防止
  • 多様な人材の確保と生産性の向上
  • 介護サービスの適正化
「地域包括ケアシステムの推進」

本取り組みは、ターミナルケアや認知症対応、医療介護の連携の強化が図られ、新たに介護医療院が創設。

「自立支援・重度化防止」

アウトカム評価が拡充され、通所介護におけるADL維持等加算や施設系サービスでは排せつ支援加算などが新たに創設。

「多様な人材の確保と生産性向上」

見守りロボットを導入することで(特別養護老人ホームにおける)夜勤職員配置加算の取得要件が緩和。

「介護サービスの適正化」

集合住宅減算の拡大や大規模通所介護等の報酬が引き下げられ、さらに2時間単位であったサービス提供時間が1時間単位となったことが主な改定の内容となります。
全体では+0.54%の改定率となったものの、改定内容が多岐にわたり、従来のサービス提供体制から大幅な改善を強いられた事業所にとっては非常に厳しい改定と振り返ります。

 

2018年度介護報酬改定による各サービスの経営状況の変化

厚生労働省の「令和元年度介護事業経営概況調査」によると、2017年度の全サービス平均の収支差率が3.9%であるのに対して、2018年度は3.1%と-0.8ポイントとなります。地域包括ケアシステムの構築に向けて拡充が期待される「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」など、一部の地域密着型サービスでは前年比でプラスに転じているものもありますが、多くのサービスにおいてはマイナスに転じ、全体では+0.54%の改定率ではあったものの、収支差率においてはプラスの影響を及ぼしておらず、介護サービス事業所にとっては、事業継続に対する不安を煽る非常に厳しい改定であったことが伺えます。

 

 

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