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☆古今東西 柔整のキーパーソンたち No.4-1『我が国の医療療養の抜本的な改革を目指しています!』

トピック

―そうなのですか。そのような経験をされてきて、今の医療に様々な問題を感じてこられたところまでは分かりました。にわかには信じ難いですが、もしそれが事実なら非常に由々しき問題だとは思います。しかしなぜそんなことが起こるのでしょうか。そういった誤診の原因は一体どこにあると酒田先生はお考えですか?

誤診の原因はどこにあるのか。
①その中の一つ、『「問題なさそうだな」という第一印象を持ってしまった時に診察者が陥る確証バイアス』

誤診の原因は「あらゆるところに存在している」と思っています。常々感じてきたたくさんの原因の中から、今回は4つだけピックアップして申し上げておきましょう。

医師個人が患者さんを見た時の第一印象というものがあります。しかしそれは不確実なものです。しかしその不確実なものを基にした、「まあ、大丈夫だろう」というような、医師個人による誤った確証バイアス、ここから誤診が始まることが多々あるのではないかと感じてきました。

具体的な実例を挙げてみましょう。
私の実父の症例です。

20年ほど前ですが、当時私の両親は北九州で暮らしていました。ある日母から、父がめまいで倒れたと電話がありました。でもかかりつけ内科を受診したところ、「診察の結果特に問題ないが、念のため」と大きな労災病院を紹介してくれて、そこの脳神経外科部長が診察してCT検査も行って、「脳は異常なく前庭神経炎によるめまいで心配はない」と診断されたので大丈夫だから、ということでした。

私は父に電話口に出てもらい、問診をしました。そして発症様式や症状から、これは脳卒中に間違いないと確信し、母に別の大きな病院の脳神経外科を今すぐ受診するように言いました。しかし医者が言うことと柔整師の息子が言うことのどちらを信用するかというと、やはり医者の言うことのほうなわけで、母はなかなか聞き入れてくれませんでした。

そこで私は横浜から新幹線に飛び乗り北九州に向かいました。新幹線の中から普段から連携させていただいていて信頼できる脳神経外科医の先生に電話したところ、忙しい外来中にも関わらず出てくれました。発症様式や症状などのエピソードをお伝えすると、私と同様に「脳卒中で間違いないでしょう」とのご意見でした。「そのケースで、CT検査で異常ないなど何の安心材料にもならないです」とおっしゃいました。「椎骨脳底動脈の解離も考えなくてはなりません」とのことでした。そして小倉記念病院の脳神経外科部長の中原一郎先生を受診すると良いとアドバイスをしてくださいました。中原先生は、全国の脳神経外科医で知らない人はいないくらい有名で信頼できる先生だということでした。

私が新幹線で向かっている間に母はかかりつけ内科に行って「息子がこんなことを言っている」と先生に相談していました。するとその内科医は、「脳は何も問題ないけど、息子さんがそこまで言うなら」と近くの病院にもう一回頭部MRI検査を紹介してくれ、そのデータと小倉記念病院宛ての紹介状を渡してくれていました。

実家に着いてすぐに父の身体所見を取りました。その結果、軽度の左片麻痺と軽度の空間認知機能障害が認められたため、私は右脳梗塞を強く疑いました。そして翌日父を連れて小倉記念病院を受診しました。そこは地域の大きな基幹病院でした。

中原先生を受診したい旨を受付で伝えたのですが、「内科からの紹介状が神経内科宛てになっているのでそれは出来ません」と言われました。
しかたないので知らない神経内科医の診察を受けました。

先に私から、発症時のエピソードと問診と身体所見の結果を説明し、右脳梗塞の疑いを持っていることを伝えました。しかし著明な歩行障害があるわけでもない父を一目見て、「別に大丈夫だろう」とその医師が思っているのがこちらにも伝わってきました。

一応は神経学的検査をしてくれましたが、それが私の目には非常に不十分で意味のないものに映りました。たとえば上肢のバレー徴候を診るにあたっても、「はい、両手挙げてー、はい、降ろしてー」という具合で、1秒間程度しか見ていなかったからです。バレー徴候は成書の多くでも20秒間観察することが一般的とされていて、私はそれまでの経験から念のため30秒間観察することにしていました。ですからこの医師の診察では異常を発見できないだろうと思っていたら、案の定でした。その医師は私たちが持参したMRIも読影した上で、「脳は異常ないですよ。やはり前庭神経炎でしょう。」と診断しました。

私は食い下がりました。自分の診立ての根拠を何度も伝えたところ、その医師は「そこまで言うなら」と渋々もう一度MRI検査をすることにしてくれました。「今日持って来られたMRIはディフュージョンという条件下の画像が撮られていなかったので、急性期脳梗塞はそもそも写らない条件のデータしかなかったし、肝心の椎骨動脈も撮像範囲から外れてしまっているので、今からもう一回撮り直しましょう」ということでした。

検査結果が出て再度診察室に入ると、その医師は緊張した面持ちで少し慌てているように見えました。そしてこう言われました。
「やはり脳梗塞でした。このまますぐに入院してください。」

中原先生にも院内紹介してもらいたいと伝えたところ、快くそうしてくれました。
中原先生からは、今回の脳梗塞が私の推測通り右脳梗塞だったことと、その正確な部位や領域なども含め、詳しい説明をしていただきました。

退院日直前の中原先生の診察では、「この画像に写って見える領域より実際はもっと大きな脳梗塞だったと思います。」と言われました。そして、「前のところで前庭神経炎のままで済まされないで良かったですね。」と言ってくださいました。そして退院後しばらくは外来で中原先生がフォローしてくださることになりました。

この体験から私は先ほど冒頭に言ったことを学んだわけです。

医師側が受け取った第一印象などによるその医師個人の確証バイアスは、一定の割合の医師が陥りやすい第一の落とし穴であり、それは患者にとっては本当に危険なことなのだということです。
その後の問診や身体所見が、まるで野球の消化試合がごとき「やっつけ仕事」のようなものになってしまうわけです。

そして、「1秒間しか見ないようなバレー徴候の検査なんてそもそもやる意味自体がないし、当然その結果にも何一つ意味はないのだ」ということを再認識しました。また「実際に大病院でもこんなことをしてしまう医師がいるんだ」ということを、私は身をもって痛感したわけです。

誤診の原因はどこにあるのか。
②その中の一つ、『神経学的検査能力の欠如』

確証バイアスの問題だけでなく、そもそもの基本的な診察能力がどうなのかという問題もあるでしょう。診察においては、問診も身体所見も両方とも、日々誠意をもって愚直にそれを実行することではじめて、実技力の面でも評価力の面でも能力を維持し向上させていくことが出来得るのだと実感しています。逆に毎日きちんとやり続けていないと、どんどんその能力は低下するでしょう。
何の職人でもアスリートでもそうであるのと同じことだと思います。

先ほどから神経学的診察の話が続いてしまいましたが、もう一つ具体的な例を挙げてみましょう。

これは大分前から感じてきたことですが、たとえばの話、診察時に神経学的検査をしないと言うか「神経学的検査が出来ない医師」が増えているのではないでしょうか。
それも内科医や一般の整形外科医ならいざ知らず、脳や脊髄などの神経系を専門とする専門医すなわち脳神経外科医や神経内科医や脊椎脊髄外科専門医の中ですらもです。

神経学的検査は、そのテスト法の種類自体も特に多いですし、また一つ一つのテスト法がそれだけで完結するものではないというのが特徴です。つまり一つ一つのテスト法の実技能力と各テスト法の結果を正しく評価する能力が欠かせないのは当然ながら、それに加えて、行ったすべてのテスト結果を総合して最終的にそれらをどう解釈しどう考察し、そこからどういう最終結論を導くのかという、「科学的論理的思考能力」が格段に求められる領域だと言えるでしょう。ですから特に、毎日の診察の場面で実行し続けていなければ、たちまち勘が鈍って出来なくなってしまいます。

ところが、「患者さんの診察でホフマン反射・トレムナー反射をやったことがない」と言う脳神経外科医に会った時は、さすがに驚きました。
しかもこの医師は総合病院の脳神経外科部長でした。
私がホフマン反射・トレムナー反射のコツについて意見交換をしようとしたところ、この答えが返ってきたのでした。

この検査は頚髄から上位の中枢神経障害の有無を調べる時には、私の中では必須の徒手検査です。私が信頼している脳神経外科医も神経内科医も脊椎脊髄外科医も、この徒手検査は決して省きません。神経系の診察においてはそれほど基本的な徒手検査の一つです。しかも所要時間は数秒しかかからない検査です。

先ほどの脳神経外科医は、他の徒手検査で代用出来ているつもりかも知れませんが、深部腱反射の亢進が明らかではなく、バビンスキー反射も陰性で、ホフマン反射・トレムナー反射だけが陽性に出る中枢神経障害患者はいくらでもいますので、ホフマン反射・トレムナー反射のような、看護師や私たち柔整師ですら学校で必ず習うような基本中の基本の徒手検査をやらないなんて、ましてやったことすらないなんて、論外もいいところです。

いや、もしかしたらベッドサイドでの神経学的徒手検査は何一つ行っていないのではないかと心配になります。その脳神経外科医は「脳のMRIを全例撮っているから大丈夫なんです」と言いましたから。

しかしそれは間違いです。脳だけ撮っても脊髄を見落としていたら、脊髄障害の患者さんの未来はそこで終わりなのです。
問診などから中枢神経障害が疑われた場合、その患者さんの病巣がどこにあるかは、ベッドサイドで行う神経学的徒手検査で詳しく調べることでしか見当をつけられません。
見当もつけずにやみくもに1か所の画像検査をしたって、そんなものは当てずっぽうの検査です。先ほど例に挙げた整形外科医と同じです。「転んで手をついた」と訴えたその患者さんは言葉が少し不自由でした。だからこそよりしっかり身体所見を確認する必要があったのです。それを怠るから、「上腕骨頚部骨折をしているのに安易に手関節のレントゲンだけ撮って手関節捻挫と判断し、とんちんかんな手関節固定をしていた」、なんてことが起こるのです。そんなので良いのなら医師でなくても誰にだって出来ます。

そういうやり方では当然、真の病巣を見つけられるとは限りません。病巣は脳にあるかも知れないし、頚髄にあるかも知れないし、胸髄にあるかも知れないのです。神経学的徒手検査をやって初めて、病巣が存在する可能性がある部位を科学的根拠を持って特定し得るのです。

たとえば「感覚解離がなければ脊髄病変ではない」とは言えないものの、頭部を除く部分だけにそれが認められたら脊髄病変の可能性が高くなります。「顔面の神経症状がなければ脳病変はない」とは言えないものの、それが認められたら脳病変の可能性が高くなります。

また1か所に病変が見つかれば問題はそこだけだと、そもそも決めてはならない場合もあります。多発性硬化症だったら同時に脳と頚髄と胸髄のあちこちに病変が存在することもあるわけで、しかもこれは腫瘍と見分けるのが簡単ではないこともあります。もちろん、脳のMRIの結果、画像の特徴から多発性硬化症が疑われた場合は、頚髄・胸髄も追加して画像検査するのを怠ることはさすがにないでしょう。しかし脳だけ検査して異常が見つからなかったからといって、その日に結論を出して良いと思ったら大間違いです。

患者さんの症状がたとえば頭痛だけで、他の異常が何もないことが客観的にも確実だったならまだしも、たとえば身体のどこかにしびれや筋力低下などの神経症状があったなら、これではだめです。

患者さんが来たらベルトコンベアーに乗せるように「ハイ、頭部MRIを撮ってきてください」と毎回機械的に脳のMRIだけ撮って、その画像に問題なければ「異常ありません」「あなたのその症状は気のせいです」ということにはならないのです。それでは片手落ちもいいところです。こんなものはとても診察行為とは呼べません。

かと言ってむやみやたらに脳から脊髄まで毎回全部MRI検査することは保険上許されていませんし、厚労省の方針で大分前からMRIは1日に1か所しか検査出来なくなったのですから、脳を撮ったらその日は他の部位のMRI検査は基本的に出来ません。そのことも含めて、複数個所を検査するには「その検査が必要だとする医学的根拠」がいるわけです。そしてそれこそが「問診結果」であり、「神経学的徒手検査の結果」であるわけです。だからこそ神経学的徒手検査の結果からベッドサイドでまずは鑑別診断すべき疾患を挙げる作業を地道に行って、その後に、それを裏付けるための補助検査として必要なすべてのMRI検査等を行って確定診断とするのが、本来の在り方だとされています。

こういう姿勢であることから想像すると、この医師はたとえば失神や失神類似症状の既往を訴えて来院した患者さんにも同じように、大して問診も身体所見も確認することなくいきなり頭部MRIだけやって、画像に異常が見られなかったらそのまま帰しているのではないかと心配になります。

失神の原因は脳卒中だけではなく、心臓・循環器系の病気だったり呼吸器系の病気だったり消化器系の病気だったり内分泌系の病気だったり、その他たくさんの原因が考えられるのですし、それぞれ命に係わる場合だってたくさんあるのですから、もしそれらの疑いが拭えないケースであったら、どの科の専門医に繋げるべきかを自分で診察して判断して紹介しなければなりません。そのまま帰してしまったら、場合によっては患者さんをみすみす取り返しのつかない危険に晒すことになります。

「そうなったとしてもそれは仕方がないでしょう。自分は脳外科医なのだから脳を診るのが仕事であって、それが本分です。だからこのやり方で良いのです。」と考える医者だとしたら、そんな医者に私は家族をかからせたくありませんし、自分もかかりたくありません。
国民の多くも私と同じように考えるのではないでしょうか。

「柔整師は外傷にしか目を向けずそれ以外のことは自分に関係ないと思っているから、誰が見てもわかるような重要な徴候を見落として患者さんに不利益を与える。だから柔整師など世の中から無くしたほうが良い。」と言うのなら、その言葉はそのままブーメランとなってそういう医師たちに当てはまることになります。
この脳神経外科部長は間違いなくたくさんの患者さんをこれまでに見落としてきているはずです。と言うかこれからも見落とし続けるはずです。

想像でものを言うなと言われるかも知れませんが、私がこう断言するのにはれっきとした根拠があります。そのような患者さんを本当に多数、実際に経験してきたからです。

たとえばその中から1例を挙げましょう。

ある日腰部の施術しながら会話していた時に、ふと患者さんから「左胸のあたりから左上肢にかけて時折しびれが出るのよね」という内容を訴えられたことがあります。その患者さんは既に最近も、有名な脳神経外科病院をこの症状で受診して脳のMRI検査を受け、「異常がない」と言われて帰されたとのことでした。そこ以外にもこれまで複数の病院の複数の診療科を受診してきたけれども、どの内科でもどの整形外科でも、どこに行ってもそれぞれ心電図を撮ったり頚椎レントゲンを撮ったりして「異常がない」と言われて帰されてきたとのことでした。

私はその患者さんを拝見して、まず地道に神経学的徒手検査を行いました。
そしてその結果から脳病変あるいは頚髄病変の存在を疑いました。
そして両方の疑いを持ったことを紹介状にしっかり書き入れて、信頼できる脳神経外科医に送りました。

その先生はまず脳のMRIを撮って異常がないことを確認してくれたのち、再度来院させて頚髄のMRI検査を行ってくれました。
そしてそこで初めて、「巨大な頚髄髄内腫瘍」が発見されたのです。

この患者さんがあちこちの整形外科で何度も受けてきた頚椎レントゲンには、頚髄髄内腫瘍は写りません。レントゲンでは分からないのです。

私がこの患者さんには「脳病変あるいは頚髄病変が存在する可能性がある」という結論に行き着いたのには、「左のホフマン反射・トレムナー反射だけがごく軽度陽性に出ているのを見逃さなかった」ことが、大きな決め手の一つになりました。つまりホフマン反射・トレムナー反射をきちんと実施したことが、この患者さんが確定診断に至るために一つの決定的な役割を果たしたわけです。

ところで私が拝見するまでにこの患者さんを診てきた医師たちはどうだったのでしょうか。
この患者さんはそれまでに長年にわたり少なくとも10か所以上の医療機関を、この症状を訴えて受診してきたと言っています。
それまでに診察した医師たちは、一体何を診察したのでしょうか。
なぜ巨大な頚髄腫瘍がある患者さんを、そのまま帰したのでしょうか。
自分の診断に確信を持っていたのでしょうか。そうだったら根本から考え方も基本的な診察方法も改めてもらわなければなりません。

あるいは「自分がやった検査では異常なかったが本当の原因は何だろう」と内心では思っていたのでしょうか。それならどうして自分よりもっと詳しい医師に紹介しなかったのでしょうか。柔整師の私でも即断した当たり前の行動がなぜできないのでしょうか。医療連携する能力が無さ過ぎるというか、やる気がないというか、そもそも患者さんに対する自分の責任というものをどう考えているのでしょうか。

人間ですから当然、ミスをゼロにすることはできません。誰であろうと、どうしてもそれは避けられないことです。
しかしながらあってはならないミス、取り返しのつかないミスというものもあります。
またそれが単純なミスではなく、普段からのものの考え方そのものの間違いであったり、基本的な診察を省略するという確信犯的な怠慢であったりした場合、それは大きく反省をしなければなりません。
そして、再び同じ間違えを犯さないようにきっちりと対策をすることが、個人にも業界全体にも、そして行政にも求められるはずであると思います。

車の運転でもそうでしょう。道路で一時停止の標識をいつも無視したり、恒常的に居眠り運転を繰り返すようなトラックの運転手やタクシードライバーがいたら、そのまま野放しにしておけないのと同じことです。そういうドライバーはいつか大きな事故を起こす可能性が非常に高いからです。
基本的な交通ルールを守ろうとしない人に交通違反の取り締まりが行われたり、危険運転致死傷罪のような法律が制定されたのには、理由があるわけです。

誤診の原因はどこにあるのか。
③その中の一つ『基本的な「問診と身体所見」の軽視』

たまたま今回は神経学的徒手検査の話が続きましたが、こういったことは何も神経学的徒手検査に限ったことではありません。問診、視診、触診、各診療科の基本的各種徒手検査法、すなわち私たちの施術室でも行えるごく基本的で初歩的な診立て方であり、私も日々行っているごくプライマリーな所見ですが、これらすべてに通底している問題です。

患者さんの顔を見もせず、話もよく聞かず、身体を触りもせず、一言二言だけ話を聞いていきなり画像検査や血液検査などの検査機器による検査に安易に回す、そしてその結果だけから診断を下したり薬を処方したりする、そういう医師が驚くほどたくさん存在しています。

患者さんのお話からもそのことはよく伺いますし、実際に私が診察室まで同行して診察の一部始終を拝見した時に、私自身のこの目でその実態をこれまでに何度もはっきりと視認してもきました。

私が思うに、多くの医師はこのやり方では見落としがあり得ることに実は気付いているのではないでしょうか。しかし仮に、「そうなっても仕方ない」と考えて同じやり方を続けているなら、「それは未必の故意である」と言われても仕方ないでしょう。

こんなものは全く診察とは言えません。「必要な情報収集」と「科学的論理的な思考・推論過程」という、面倒ではあるが絶対に省いてはならない必要なプロセスをいとも簡単にほとんど省いて、とことん簡略化した単なる機械的単純作業をこなしているに過ぎません。

私たち柔整師で言えば、「腰が痛くなったのですか、ハイではそのベッドに寝てください」と言って何も診ずにいきなりマッサージをする、それと同じです。圧迫骨折だったらどうするのでしょうか。尿路結石の患者さんはマッサージして何の意味があるのでしょうか。
医師だろうが柔整師だろうが、こういう姿勢で患者さんに向き合っていたのでは、毎日のように見落としがあって当然です。

例えば、私もさすがにびっくりした1例を挙げておきましょう。
ある日かかりつけ内科を受診したその足で、当院に来院された患者さんがいました。

いつもと違い非常にふらふらしていました。話す内容や話し方にも違和感を覚えました。その状態を見て私は、患者さんをまずは視診しました。患者さんの顔は黄色がかっていました。眼球結膜は黄染していました。内科医師にちゃんと診察してもらったのか聞いたところ、診察してもらったと言います。こんなに明らかな黄疸を内科医が見落とすものかと不思議に思いながらも、もともと肝臓が悪いということは患者さんから聞いていましたので、「黄疸が見られるようです。肝機能障害の急性増悪をきたしていませんか?肝性脳症も発症して軽度の意識障害を起こしていませんか?」という内容の紹介状を急いで書いて、今行ってきたばかりの内科にすぐに送り返しました。患者さんは結局その内科からそのまま直ちに総合病院に紹介され、肝機能障害の急性増悪で緊急入院になりました。

医師が診察していながら、患者さんの顔も見ていないのです。歩様も見ていないのです。それで診察料を請求しているのです。
何をやっているのでしょうか。
しかもこういう例は、何度も申し上げますが山ほどあるのです。

誤診の原因はどこにあるのか。
④その中の一つ『総合診療科的視点の欠如』

患者さんを拝見するにあたって柔整師も医師も最初にやるべき、必要欠くべからざる行為は、「問診」と「身体所見」だというお話をしました。

丁寧に患者さんのお話を聞き、必要に応じてこちらからも患者さんに質問をして、症状の原因を推測するにあたって必要となる「重要な医学情報」を漏れなく聞き出すこと、それが「問診」です。
問診によって病態推論の80%以上が遂行され得ると多くの医学書にも書かれています。

そしてその推測を裏付けたり、あるいはその推測以外の可能性に気付いたりするために欠かせないのが、「身体所見」です。
身体所見には、視診・触診・神経学的検査・そのほか内科系外科系合わせ各診療科特有の徒手検査といったものが含まれてきます。

問診も身体所見も時間と労力を要しますが、これ無くしては正しい診断や正しい診立てには決して行き着けません。
ですから柔整師にとっても医師にとっても、患者さんを拝見する上でここがまさに一丁目一番地であることは、ぜひ忘れずにいなければと思います。

さて、それを行うにあたってですが、これまでも述べてきたように、「自分の専門領域のみに当てはめて、その領域内だけで物事を考えていたのでは決してならないのだ」ということが次に大変に重要なポイントです。

同じ「頭痛」という症状を例に挙げても、その真の原因は「片頭痛」かも知れないし、「緊張型頭痛」かも知れないし、「後頭神経痛」かも知れないし、「群発頭痛」や「三叉神経痛」や「高血圧性脳症」や「慢性硬膜下血種」、あるいは「急性緑内障発作」や「副鼻腔炎」、はたまた「頭皮の帯状疱疹」かも知れません。または大変怖い「髄膜炎」や「くも膜下出血」や「椎骨動脈解離」や「脳腫瘍」のことだってあるわけです。

頭痛は脳神経外科や神経内科だけでなく、眼科や耳鼻科や内科や整形外科や婦人科や皮膚科など、まさに様々な診療科にまたがる症状です。

そしてこれらは、基本的な問診と身体所見でその原因疾患の多くを見つけ出すこと、あるいは少なくとも重要な鑑別疾患の1つとして挙げ出すことが可能です。

内科の医師が、忙しいからといってしっかりとした問診と身体所見を取らずに安易に「風邪からの頭痛でしょう」ということで痛み止めを出して帰したとして、実はその患者さんがくも膜下出血であったら、取り返しのつかない大変なことになるのは誰もが容易に想像できるでしょう。

柔整師についても同じことが言えます。普段から寝違えの患者さんは私たちのところにたくさん来るわけですが、施術する際に頭痛の訴えも聞いたとしたらどうでしょう。これは柔整師の誰もがよく経験することかと思います。それに対し最低限行うべき問診も行わずに「寝違えを発端とした頚部の筋緊張から派生した緊張型頭痛かな」などといった安易な考えで、「とにかく寝違えを治すのが自分の仕事だ」と頚部の施術をして帰したら、どうでしょう。結果は先ほどの内科医と同じになります。頭痛の原因がくも膜下出血でもマイナーリークであれば、頭痛の強さは軽いことだってあります。しかしだからと言って甘く見たら、後刻セカンドアタックが来た時には本当に取り返しのつかない大変なことになります。1回目が小出血で済んだ脳動脈瘤が再破裂した場合の死亡率は、非常に高いです。

ですから私たちにしても、他人事では全くないわけです。
実際に私は、一見私たちの範囲内の症状に見えて、実は全く違う診療科の重大疾患だったというケースを山ほど経験してきました。

たとえばその中から1例を挙げましょう。

ある日当院に「今そこで右ひざをガクッとやっちゃった」と言って歩いて患者さんが来られたことがあります。私は一通りの問診の後、右膝関節の身体所見を取りました。しかしその患者さんの右膝には、有意な所見が何もありませんでした。また一見したところでは著明な歩様異常は見られず、表情もニコニコしていました。話すのも問題なく、ペラペラ喋っていました。

通常でしたら、まあ軽い捻挫なのかな、ということで包帯でもして帰すことだって十分あり得るのではないでしょうか。
でも私はそこで疑問を持ちました。そしてあることを疑って神経学的身体所見を取りました。そして軽度の右片麻痺が存在していることを見つけたのです。

「この患者さんは右膝を痛めたのではなく、今そこで脳梗塞を起こしたために右片麻痺が突然出現し、その結果右膝がガクッとなったという可能性が高い」と私は判断しました。そして直ちに救急車を呼びました。救急車が到着するまでの間に奥様に電話をして状況をお伝えし、今書いていたカルテを急いでコピーしました。そして到着した救急隊員に手早く状況を伝え、「急性期脳梗塞治療が出来る病院に搬送してください。そしてこのコピーをドクターに手渡してください。」と依頼しました。

患者さんは脳神経外科病院に搬送されてそのまま緊急入院となり、そこで直ちに行われた検査の結果、脳梗塞であることが確定しました。
そしてその病院で急性期加療ののち、東京の高度専門病院に紹介転院となり、その脳梗塞の原因となった「頸動脈の強度の狭窄性変化」に対して手術が行われ、患者さんの命は助かりました。

私がこの患者さんを救えたのは、「自分の専門領域のみの視点」だけではなく、「脳神経外科・神経内科的視点」を含めた「総合診療科的視点」を同時に働かせたからです。

こういうことが現実には私たちの施術所でも日常的に多々あります。
毎日の来院患者数が私たちより桁違いに多い開業医のクリニックでも、当然そのはずです。

逆に言えば、たとえば開業整形外科の医師で、こういった急性期脳梗塞や、ここまでに私が例示してきたような症例を、もし見つけたことがない、あるいは私より数が少ないとしたら、それは自動的に、これまでに多くのそういう患者さんを見落としてきたことを意味します。
見落としたその脳梗塞患者さんは、たとえその日は電気治療を受けた後に普通にそのクリニックから歩いて帰宅したとしても、セカンドアタックで後刻死亡してしまっているかもしれません。

ですから私たち柔整師には、もちろんすべての医師にも、「総合診療科的視点」が常に必要なのです。
そして各専門領域の医療者との迅速かつ綿密な連携が、私たちにとっても、もちろん医師にとっても、常に絶対的に必要なことであるわけです。

そうでなければ誤診は防げません。見落としも防げません。
適切な施術や治療を患者さんに施すことも、正しい治療へ患者さんを繋げることも出来ません。
どんなに面倒でも、いくら忙しくても、「総合診療科的視点」を常に持っていなければ、本当の意味で患者さんを助けることは出来ないのです。

もちろん全ての疾患を100%見つけ出すことは残念ながら出来ません。
しかし後から検証してみて、「あれは見つけ出せたはずだった」という事例は、究極まで減らしていく努力が必要だと思います。少なくとも医療療養に携わっている者である以上、そこを目指すベクトルは、持ち続けなければならないと私は考えます。

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